2023.09.13 (Wed)
濱口桂一郎氏の『家政婦の歴史』(文春新書)を読んで――― 日本のドン、矢次一夫も「家政夫」だった? 「同一労働」「同一賃金」は困難?
日本のドン、矢次一夫も「家政夫」だった?
「同一労働」「同一賃金」は困難?
(2023・9・13・水曜日)
濱口桂一郎氏の『家政婦の歴史』(文春新書)を読んだ。
(こんな内容)→家政婦と女中はどう違う?
家政婦は歴史上、いつから家政婦と呼ばれるようになったのか?
2022年9月、ある家政婦の過労死裁判をめぐって、日本の労働法制の根本に潜む大きな矛盾に気づいた労働政策研究者の著者は、その要因の一端を、市原悦子演じるドラマ『家政婦は見た!』に見出し、家政婦をめぐる歴史をひも解くことを決意した。
戦後80年近くにわたって、労働法学者や労働関係者からまともに議論されることなく放置されてきた彼女たちのねじれた歴史を、戦前に遡って描き出す驚くべき歴史の旅程。
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冒頭から脱線で恐縮だが……。
「家政婦」と聞くと思い出すことがふたつある?
ひとつは、わが家には「家政婦」がいた。通いのおばさん。小学生の時か……。朝、通いでわが家にやってくる。午前8時?
洗濯とかやってくれていたのかな。昼御飯は、食卓で一緒に食べることも。おばさんは弁当をもってきていた。そのあと、夕方まで…。
母親は専業主婦だったが……。家政婦がきていたのは数年ぐらい。弟が生まれて育児がいろいろとあって、その分、家事をやってもらっていたのか? 実家は田舎でそこそこ広いから、庭掃除とかやることはあったのかも。正味3~4年ぐらい?
あと大人になってから知った「家政婦」(文学)の世界。これは「兄嫁文学」「未亡人文学」「看護婦文学」「女教師文学」と同じレベルでのもの。ただし、1983年からテレビ放送された『家政婦は見た』あたりから。フランス書院文庫でも「家政婦」モノが今はたくさん出ているが、昔はあまりなかった分野だとは思う。
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昔ながらの「女中」的な「家政婦」は核家族化もあって廃れていた。いっときの「ハイボール」のようなもの。近年、派遣婦としての家政婦が介護やらで『家政婦は見た!』で復活? 短時間の清掃等々をダブルインカム族のためにやってくれるようになってきたのかな?
ともあれ、家政婦の歴史を真正面から捉えて、生真面目な筆致で分析した書。
本書の「はじめに」も『家政婦は見た!』から話が始まっている。そしてある家政婦の「過労死」をめぐる裁判に触れ、家政婦は労働基準法に定める家事使用人にあらずという判決は不当であり、間違っているとの指摘。本格的な法律解釈書でもあるのだ。
戦前からの派出婦の歴史、戦後のGHQのお達し(とりわけ、スターリング・コレットなる担当官の個人的見解(一知半解?)による「労働者供給事業の[ほぼ]全面的禁止」)による法律制度の改変等々による変化、戦後の派出婦会の隆盛等々……。
矢次一夫氏の『臨時工問題の研究』(労働事情調査所・1935年』や『この人々 私の生きてきた昭和史』(光書房)などの引用分析まだ出てくる。矢次さんも「家政夫」の仕事をしていたこともあった?
そのほか、個人的に注目している女流作家・由紀しげ子さんの作品に「女中っこ」というのもあるそうな。
とにもかくにも、専門的な内容。家政婦になる人や雇う人でないと、身に迫ることがないので、ちょっと読みこなせない? とはいえ、日本の労働事情をかいま見て、ひとつの労働市場の現場を知る上で役立つ一冊でした。
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蛇足だが、家政婦は「家政婦」でいいのか?看護婦は看護師にさせられた。家政婦も家政師にさせられるのか?
ドラマは特に見ていないが、初期の市原悦子さんだと「おばさん家政婦」のイメージだが、そのあとのドラマでは松島菜々子さんも担ったとか。それだとフランス書院文庫的イメージもありうる。男(松岡昌宏)が演じる「家政夫」もあったということで、「家政婦」と「家政夫」と使い分けるようになっていればベターだと思うけど?
最新の「家政婦」事情を勉強するために、関連文献を読む必要があるかな?
望月薫氏の『溺れ家政婦: 恥ずかしい命令でも従います』 (フランス書院文庫) や、村崎忍氏の『僕の家には美しくていやらしい家政婦がいる』 (フランス書院文庫)など?
それらの本は未読だが、草凪優氏の『家政夫はシタ』 (双葉文庫)はマイブログで紹介ずみ。いうまでもなく『家政婦は見た』や『家政婦のミタ』のパロディ版? 以下再録風になるが……。
リストラされた40代の中年男が主人公。「一人会社」で、「家政婦」ならぬ「家政夫」となり、掃除や片づけなどあらゆる雑用仕事をこなす。奥さんはいる。
要請を受けて、行く家、行く家、なぜか美人妻、専業主婦、キャリアウーマンばかり。そしてなぜか誘惑され、なるようになってしまうという男のメルヘンを描いた佳作だった? ううむ、こんな酒池肉林の世界が、得られるのなら、リストラされなくとも早期退職してフリーになりたいものだ?
しかし、美人家政婦なら、家政婦としてのサラリーのみならず、メルヘンのサラリーももらえそうだが、家政夫の場合は、メルヘンのほうは現物支給のみ。
男女差別はやはり、「家政労働」という「同一労働」にあっても、「時間外労働?の有無」によって存在するようだ。
草凪さんの小説は、男女平等社会構築のためにも、これでいいのだろうか?と思案させる平成版プロレタリア小説であった。
ともあれ、ネバーセイネバー。あとは野となれ山となれ!
(マイブログで紹介した本で読みたい本があれば下記のアマゾン欄をクリックしてどうぞ)
(無料メルマガ「古本虫がさまよう」もあり。より、つっこんだ内容掲載?)
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