古本虫がさまよう 『ぼくのミステリ・クロニクル』 と『風から水へ ある小出版社の三十五年』 は中堅出版社の歴史を知る上で貴重な証言集だった。そして公共図書館の役割とは?
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『ぼくのミステリ・クロニクル』 と『風から水へ ある小出版社の三十五年』 は中堅出版社の歴史を知る上で貴重な証言集だった。そして公共図書館の役割とは?(2017・8・13・日曜日)



鈴木宏氏の『風から水へ ある小出版社の三十五年』 (論創社)を面白く読んだ。

(内容紹介)→〈書肆風の薔薇〉から〈水声社〉へ。編集者・経営者として過ごした35年間の、さまざまな人や本との忘れがたい出会いと別れ……。小出版社の現状に関心を寄せる人々に向けて語り、書いた、内側からの「現状報告」の書。

著者は1947年生まれ。いわゆる全共闘世代。小田光雄氏との一問一答、聞きがたり風のインタビュー録。

学生時代は、日共系ではなく新左翼系…。トニー・クリフの『ロシア=官僚制国家資本主義論』 (論争社)に共鳴していたそうな。また、ソ連の崩壊を「慶賀すべきことだ」と言った時、「ファシスト」と呼ばれ、子供を公立中学校ではなく私立中学校に入れたら「裏切り者」と批判されたそうな。「北朝鮮の、少なくとも一部が地獄ないしはそれ以下だということを認めるのに吝かではありません」とも。
ということは、鈴木氏は、全共闘世代にあっても、そんなに悪い人ではない? 自宅では産経新聞と朝日新聞を購読しているとも。中庸なリベラルな方なのだろう。

ともあれ、国書刊行会で編集者として働き、やがて独立し、〈書肆風の薔薇〉という出版社をおこす。そして「水声社」に社名変更。独立にあたっては、親や親戚などからも出資金を募る。編集者兼経営者(社長)として、資金繰りなど四苦八苦。倒産の危機も何度か。それを乗り越えて今日まで。

義父の紙の会社での仕事もする関係で、二足の草鞋をはいたこともあった。「彷書月刊」の編集顧問を引き受けたりもした。
再版制度を骨抜きにするアマゾンには対抗し、水声社の本はアマゾンに出していないとも。天晴れ!?

創業時には、売れ残った本も「断裁しない」「ゾッキに出さない」と決意していたものの徐々になし崩しになっていく過程…。著者への印税支払等々の悩み…。小出版社の経営者としてのさまざまなディレンマなども率直に語られている。

この本の中で、新木正人氏の『天使の疑惑』という本が論創社から出ているとの紹介があったので、読んでみようかと思って、アマゾンでチェックしたらヒットしない。

「天使の疑惑」では出てこず、「天使の疑惑」「新木」でも出てこない。あれ?と思って、「天使の疑惑」「新木正人」と入れたら『天使の誘惑』なる本が出てきた。どうやら『天使の疑惑』は、誤植のようだが、『天使の誘惑』と聞けば、黛ジュンか天地真理を想起させられるのでは? 実際、黛ジュンについて論じているようであるが?

ともあれ、この前、紹介した戸川安宣氏(空犬太郎氏編)の『ぼくのミステリ・クロニクル』 (国書刊行会)は、→、東京創元社で長く編集者として活躍し、伝説の叢書「日本探偵小説全集」を企画する一方で、数多くの新人作家を発掘し戦後の日本ミステリ界を牽引した名編集者、戸川安宣。幼い頃の読書体験、編集者として関わってきた人々、さらにはミステリ専門書店「TRICK+TRAP」の運営まで、「読み手」「編み手」「売り手」として活躍したその編集者人生を語りつくす。-------という本であったが、同様の面白さを感じた次第。

どんどん初版発行部数も低下。頼みの綱(?)の図書館や研究者の購入も低調とのことだが……。

巻末には〈書肆風の薔薇〉・〈水声社〉の刊行本リストが収録されている。本欄でも、桑原聡氏の『《ドン・キホーテ》見参! 狂気を失った者たちへ』 (水声社) などを紹介していたかと。

僕のような読書傾向の人間には、あまりなじみのない出版社であるが、リストを見ると、積んどくしている本も何冊かはあるようだ。ともあれ、出版社がいろいろとあるのは民主主義社会の基礎。

そういえば、「防犯カメラ」の功罪に関して、小川進氏の『防犯カメラによる冤罪』 (緑風出版)という本と、賀来泉氏の『社会を変える防犯カメラ』 (幻冬舎メディアコンサルティング)なる本が出ている。
前著は、「防犯カメラ」批判本、後著は「防犯カメラ」礼賛本だ。

どちらかといえば、後著のほうに拍手をしたくなるが、前著の指摘もあながち無視はできまい。少なくとも、社会的にみても賛否の分かれる問題に関しては、複眼的な視点も持つことも必要ではあろう。双方の主張をよく読んで、その上で…と。そのためにも言論出版の自由は大事。物事を考える上の基本データを提供もしてくれるからだ。
かといって、慰安婦問題のように、嘘と捏造の吉田清治の本は困るが…。いやいや、あの吉田証言は間違っていないという趣旨の立場からの吉田擁護本もある。今田真人氏の『緊急出版 吉田証言は生きている 慰安婦狩りを命がけで告発!初公開の赤旗インタビュー』 (共栄書房)。積んどくしているが……。

その点、産経新聞(2017・8・12)「東京版」に掲載されていた千代田区図書館の企画展(「週刊読書人」と「図書新聞」の「書評紙が選ぶ、今すぐ読みたいベスト16」)のリストには若干の疑問が生じた。

というのも、これは2つの書評紙が、一年間に紙面で紹介した本の中から「政治・社会」「海外の文学」「哲学・思惟」「ルポルタージュ」「歴史」「サイエンス」「芸術」などの分野ごとに「ベスト本」を推薦するというもの。総計150冊とのことだから、産経紙面で紹介されているリスト本は、ほんの一部でしかないのかもしれないが、「歴史」では、加藤陽子氏の『戦争まで』 (朝日出版社)、西崎雅夫氏の『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』 (現代書館)のみとなっていたが、このあたり、両者の見解とはちょっと異なるものも紹介されていれば良いのだが……。

例えばこんな本。
加藤康男氏の『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』 (ワック)や、岩田温氏の『だから、日本人は「戦争」を選んだ』 (オークラNEXT新書)なども同列に紹介されているだろうか。こういう本を書評新聞がそもそも書評していただろうか?

ちなみに、産経記事によると、図書館側は、そうしたリストの本を展示し貸出するとのことだが、加藤康男氏のこの本も、岩田氏のその本も、千代田区立図書館は所蔵していないようだからそもそも展示もできない?(この図書館は、全般的に蔵書量が貧弱。そもそも区民にも10冊しか貸さないというケチ図書館? 区民でないと、たったの5冊しか貸出しないのだから驚き。こんなに貸出冊数を少なめに制限している図書館は少数派だ。新宿区立図書館も区民、非区民も10冊と少なめだが…。普通は区民なら15~20冊ぐらいは貸出可能にしているものだ)。

公的な機関などが「夏休み・読書の秋にお薦めする本」として「防犯カメラ」の項目などがこのリストにあったなら、前述のように「防犯カメラ」を擁護する本だけでなく、批判する本も同様にリストアップされてしかるべきだろう。

しかし、私的な出版社は、その編集方針に基づいて、独自の出版をするのはまったくの自由。「防犯カメラ」を批判するなら、その立場からの本を出し続けても何の問題もあるまい。それも個性、言論の自由のうちだから。緑風出版は、左派系出版社だろうが、「反共リベラル」的な塩路一郎氏の『日産自動車の盛衰 自動車労連会長の証言』 (緑風出版)なる本も刊行している。目が離せないユニークな出版社だ。
「図書新聞」も「週刊読書人」も私的な新聞社だから、どんな本を好意的に書評するか、無視するかなど含めて推薦書のリストアップはまったくの自由。

ただ、それに公共図書館が安易にのるのは考えものではないか。

図書館はやはり複眼的な視野を忘れずにいることが肝要だ。その点で、沖縄といういささか偏りがちな地にあって、公平な図書館運営をしている体験を綴った、山口真也氏の『図書館ノート 沖縄から「図書館の自由」を考える』 (教育史料出版会)は大変参考になる本だった。彼が述べていたように、米海兵隊を擁護するもの、批判するもの、さまざまな立場の本や資料を蒐集し、利用者に提供するという姿勢が図書館の基本であろう。資料蒐集に好き嫌いがあってはいけない。

どっかの千葉の某図書館のように、保守系筆者の本はどんどん焚書にして、貸し出さないようにして平気だったような人は、そもそも図書館員になってはいけない人だったというしかない。

ともあれ、ネバーセイネバー。あとは野となれ山となれ!
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