古本虫がさまよう レーガンとトルカチョフが、自由世界を救った
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レーガンとトルカチョフが、自由世界を救った
(2016・9・4・月曜日)





デイヴィッド・ホフマンの『最高機密エージェント CIAモスクワ諜報戦』 (原書房)を読んだ。


内容紹介→西側の対ソ戦略に大きな影響を与えた冷戦時代最大のロシア人スパイ、アドルフ・トルカチェフの実像。
ピュリッツァー賞記者が膨大な記録から掘り起こした骨太のベストセラー・ノンフィクション! ホフマン,デイヴィッド・E.「ワシントン・ポスト」紙の編集者として活躍するいっぽう、アメリカのテレビ局PBSによる調査報道番組「フロントライン」の特派員を務める。「ワシントン・ポスト」紙のモスクワ支局時代の見聞をもとにした“The Dead Hand:The Untold Story of the Cold War Arms Race and its Dangerous Legacy”で2010年にピュリッツァー賞受賞



いやはや、大変面白い本だった。機密解除にともなうノンフィクション・スパイ物語。今年読んだ本の中ではベスト3に入る(数ヶ月後に発表される恒例の「みすず」の読書アンケートでは、この本は登場しないかも? なにしろ、みすず書房から刊行された『スターリンのジェノサイド』にも「沈黙」する進歩的文化人が多数派であるから?)。

ワシントン・ポスト関係者としては、「容共リベラル」ではない著者であろうか? 『スターリンの恐怖政治 上下』 (三一書房)の著者・ロバート・コンクェスト(この本では「ロバート・コンクケスト」と表記)などの引用もあり、カーター時代のいささか「無能」な諜報活動(CIA長官ターナー)、レーガン時代になって建て直された諜報体制(CIA長官ケーシー)の比較などもされている。

ソ連体制に不信をいだくアドルフ・トルカチェフは、自らアメリカ大使館関係者の外交ナンバーのついた車を探し出し、接触を試みる。自分はソ連の軍事機密にかかわる研究所に勤務しており、その情報を漏洩することが可能な立場であるとの手紙を渡したりする。たまたま、その手紙を受け取った相手は、モスクワ大使館内のCIA幹部。ただ、KGBの罠かも知れないということで、なかなか両者の接触は実現しない。

やっと両者が接触し、トルカチェフは正式にCIAに採用され、貴重な軍事情報をアメリカにもたらすことになる。

CIAから支給された小型カメラなどを使っての大胆な撮影(時には機密資料を昼休み自宅に持ち帰り、何百枚も撮影)。それを入手し、米国に送れば、米軍事関係者は驚嘆する。ソ連のさまざまな軍事的対応の実態が判明するからである。

「トルカチェフの書類、ノート、図面は長年閉ざされた世界だったソヴィエトの軍事計画を垣間見せてくれた」「彼の情報により[研究と開発]の五年分は短縮できたと思われる」「当時国防総省が研究開発、実験、設計にかける年間予算は120億ドルを超え、そのほとんどは空軍と海軍が新兵器と近代化兵器を備えたソヴィエトの脅威に対抗するために使われていた。五年分の支出を浮かせたことで」「トルカチェフは少なく見積もって数百万ドル、おそらくそれよりはるかに多い額に相当する文書をアメリカに提供したことになる」「みんな大騒ぎだった。軍部の人間は、信じられない、どうやって手に入れたんだ? なんとかしてもっと手に入れてくれ! なんて言ってた」
「トルカチェフの資料を、ある兵器に関する『最初の情報』『唯一の情報』『最初の確実な情報』であると称え、『これらのシステムに対してアメリカが対抗手段の研究開発に費やす時間を少なくとも十八カ月は短縮し、あるシステムについては五年も短縮した』と」



トルカチェフは、アメリカの軍事予算に関して、10億ドル、20億ドル、いやそれ以上の研究開発費の節約を実現させた「ビリオンダラー・スパイ」だったという。

当然、金銭的なやりとりも生まれる。なにしろ、CIAのスパイとなり、それが露顕し、自殺したり逮捕処刑されているロシア人は少なくないからだ。ただ、ロケットは作れても満足なトースターも作れないのが当時のソ連の技術レベル。子供用の製図グッズやユーライア・ヒープなどのロックグループのレコードやミュージックテープや、自分用の医薬品や反体制派の本など、つつましい生活用品の要求もされている。
トルカチェフがスパイ活動をしていた時期、僕はソ連に観光旅行に行ったことがある。KGB本部前をバスで通った時、バスから本部建物を撮影したこともある。コスモスホテル(当時としては高級ホテル)のトイレにあったわら半紙のようなトイレットペーパーに唖然としたこともある。石鹸も臭かった。さすがにトルカチェフは、トイレットペーパーは要求していない(嵩張るから?)。

トルカチェフにしても、その妻にしてもスターリン体制の被害者。彼女の両親は逮捕されている。母親は、彼女の父親が実業家で、デンマークにいる父に会いに行ったということで「国家転覆罪」で逮捕され処刑された。父親は収容所送りで、スターリン死去後、名誉回復もし、彼女(娘)のもとに戻るがすぐに死去。

そういう両親のいない子供時代を過ごした彼女は、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』が「ノヴィ・ミール」に掲載されると真っ先に読みふけったという。彼の未刊の作品も地下出版で読んだ。

そして1968年のソ連のチェコ侵入に際して、職場では「この行動を支持する声明を出すのが流行った。彼女は自分の集団でただひとり、それに反対した。上司に言わせれば、彼女は『不誠実なことができない』人だった。彼女の長年の苦しみとソヴィエト共産国家に対する根強い反感を、トルカチェフはいつの間にか自分のものとしていた」という一節は、自称「平和主義者」たちにもぜひ熟読玩味してほしいものだ。

集団的自衛権に反対する声明を出すのが日本でも流行った。かつて反核運動に賛成するのも流行ったことがある。当時の日本で何千万人もの人が賛成署名をしたとか。単細胞的に、「平和(反核)に賛成ですか?」と聞かれたら「賛成です」と答えるだろう。しかし、あの時の反核運動は、ソ連の核兵器には沈黙し、自由世界の対抗のための後から配備の核兵器のみに反対するような内容だった。それを知ってか知らずか、もしくは犬猫のペットの名前まで書き加えたのか数千万もの署名がなされたという。
僕はもちろんそんなものに署名はしていないが、本当の知的勇気というのは、トルカチェフの妻のような態度を取るということだ。こんな簡単な事実を認識できるか否かが、「知性主義」の証明にもなろう。シールズとやらにそんなことが理解できるだろうか?

ああいう言論抑圧体制国家で、職場で、自国政権の対外行動に「賛成」しないという態度を表明することがどれだけ勇気が必要か。よくよく考えてみることだ。香港の学生たちが、中共の独裁体制への反論をデモの形で展開することだって、そこそこの勇気を必要とするだろう。

当時のソ連では投票する際、唯一一人の立候補者氏名が書かれた投票用紙を受け取り、それを投票箱に入れるだけ。その候補者がいやだと、まっすぐ投票箱に向かわずに、横にずれて、そこでバッテンを書いて、箱に入れるシステムだった。当然、立会人からすれば、この人は、唯一最良の共産党候補者に投票しなかった人と分かるようになっていた(このあたりのことは入江通雅氏の『最新国際関係概説』嵯峨野書院—参照)。

トルカチェフの妻がどういう投票をしていたかまでは本書には出てこないが、そういう投票行動をしていたのではないか。こういう投票システムは、中共や北朝鮮やベトナムやキューバでいまも取られていることだろう。この何処に民主主義があるというのだろう。秘密投票も守られず、複数立候補も自由立候補も認められないような選挙システム。そこには「民意」は反映されるわけもない。

自由世界で、自由な選挙によってそこそこの「民意」が反映されているにもかかわらず、それをことさら「デモ」による「ノイジィマイノリティ」を「民意」と誤解させようと躍起になるだけの行為は虚しく危険であるともいえようか。もちろん、明日の多数派を目指して、現在の少数派が少数派であっても、その存在をアピールするために一定のデモを行なうのは自由だし保障されるべきだが、それをことさら勇気を示すものだと自画自賛するのは可笑しいのでは? トルカチェフの妻のような行為を取れるかどうかが大事なのだから(僕は授業料値上げ反対のクラス決議の際、値上げに「賛成」したことがあるけど?)。

トルカチェフは、そういうソ連体制にダメージを与える方法として、ベレンコがミグ25と共に日本経由でアメリカに亡命した事件にヒントを受ける。 「ソ連に対する彼の最大の武器は反対派のチラシではなく、彼のデスクの引き出しのなかにある。ソヴィエト軍事技術研究の、極秘中の極秘である青写真や報告書。それら重要な設計図を『主敵』であるアメリカ合衆国に渡せば、その裏切り行為で体制に深刻な損害を与えられる」と。

そして実践していくのだ。湾岸戦争でアメリカの戦闘機がイラク側のソ連製のミグに圧倒的勝利を得たのも、トルカチェフの情報漏洩の成果だったという。

だが、同じことは、対比的に存在する。アメリカのCIA関係者の中にも、不遇な扱いを受けたことを恨みに思い、KGBに接触し、トルカチェフの情報を売る者も。そしてそのために、ある意味で悲劇的な結末を迎えることになるのだが……。

このトルカチェフの存在をみるにつけ、中国や北朝鮮のスパイ機関が、同様のことを日本やアメリカでも行なっていると考えてもいいだろう。金や美人局や不遇やらさまざまな理由で、機密を売る「売国奴」もいることだろう(それをかろうじて「自殺」ということで自ら阻止した上海の日本の外交官の悲劇を忘れてならない)。現在進行形で、こういうスパイ活動はいまも行なわれているのだ。

「トルカチェフ」はソ連ロシアだけでなく、日本にもアメリカにも英国にもいる。もちろん、中国や北朝鮮にもいるだろう。どっかの大新聞の投書欄の主張ではないが、国交がないと「大使館」が設置できない。「大使館」がないと、こういうスパイ活動をする「根拠地」がないことになる。その意味で、共産圏諸国は「国交」を樹立し、スパイ活動のための「拠点」を作りたがる傾向がある。だから北朝鮮などと安易に国交回復をする必要はないのだが(もっとも、朝鮮総連のビルなどが大使館みたいなもの? だったら北朝鮮の核実験などに関しては、心から反対する人々は、朝鮮総連本部前で「反対」を叫ぶデモをすべきなのに、せいぜいで抗議声明を出したり、原爆記念公園前で座り込みをする程度。何かお忘れでは? 物足りない?)。

それはともかくとして、米ソ東西冷戦さなかの1980年前後の米ソスパイ攻防劇を知る上で、本書は貴重な教訓の数々を提示してくれている。

ともあれ、ネバーセイネバー。あとは野となれ山となれ!

(以下「みすず」関連でご参考までに再録。
「進歩的(社会科学)知識人」に黙殺された『スターリンのジェノサイド』『消えた将校たち  カチンの森虐殺事件』 (2014・2・2・日曜日)

昨日(土曜日)は、五反田、神保町、高円寺の三カ所(3P)で古本市が開催されるスペシャルディー。都区内フリーパス(730円)を購入。

まずは五反田古書会館へ。相変わらず、会場すぐ近くでタバコを吸っているおっさんが。やれやれ。

高瀬伝氏の『随想 戦後の国会と私』  (霞ヶ関出版)、小島信夫氏の『女流』  (集英社文庫)、川島のぶ子氏の『女優 裸の履歴書』 (双葉社)、白井新平氏&玉川しんめい氏の『住民運動の原像 借家人同盟と逸見直造伝』  (JCA出版)、山城正雄氏の『遠い対岸 ある帰米二世の回想』 (グロビュー社)、林健太郎氏の『流れをとらえる』 (新潮社)、福島理本氏の『罰は刑にあらず  ある下士官の二・二六事件』 (さきたま出版会)などを購入。

『女流』は、年上の女の物語のようだ。うふふ?

その後、お茶の水へ移動。

古書会館で、不二教職員連絡会著 ・ 浅野晃編の『殉国の教育者 三島精神の先駆』  (日本教文社)、 『主義にうごく者』  (日本教文社)、 『共産病患者の病理』  (民主日本協会)などを購入。 持っているような気がする本もあったが…。『主義にうごく者』は読んでいたはず。サイン付きなので購入。

古書会館出てぶらぶら。東京堂などに『みすず』(2014年1月&2月号・読書アンケート特集)があった。岩波ブックセンターで購入。さっそく移動の車中などで読み始め読了。

2012・9月に、みすず書房から刊行された『スターリンのジェノサイド』はむろんのこと、同年12月に刊行された、ザヴォドニーの『消えた将校たち  カチンの森虐殺事件』を『みすず』(2013年1月&2月号・読書アンケート特集)でベスト5にあげる人は誰もいなかった(と記憶している)。

2013年1月&2月号では、本が出たばかりで読むのが間に合わなかったこともありうるだろうが、爾来一年経過しての2014年1月&2月号でも、この二冊をあげる人はいなかった(ようだ。三段組で活字が小さく、書名などをゴシックにしてくれるとまだ読みやすいのだが、そんな強弱もないので、万が一、読み落としていたらごめん遊ばせ)。


読書アンケート(2013年中にお読みになった書物のうち、とくに興味を感じたものを5点以内で…)に答えているは156人。この中には理系の人や小説家や経営者もいるだろう。
そういう人たちは、それぞれの自分たちの専門分野にふさわしい本を紹介しているだろうから、当然のことながらそれはそれでいい。

だが、やはり社会科学系統(政治学などを専攻とする)知識人が何十人かはいるだろうから、そういう人の中に、しかも、みすず書房から出ている本なのだから、先の二冊を「ベスト5」にあげる人がいてもおかしくないと思うのだが……。

ソ連軍の「ハンガリー侵攻」を「ソ連軍のハンガリー進駐」なんて書くような人の本を「平和への思いを受け継ぐために、この本を残してくれたことに感謝するばかりである」とまで称賛する人もいたが、まぁ……?

しかし、平川祐弘氏の『竹山道雄と昭和の時代』  (藤原書店)を推挙する人が二人もいたのには刮目(竹内洋氏&杉田英明氏)。平川氏のこの本は、竹山道雄と進歩的知識人とをテーマにした作品であり、論壇からは無視されかねない名著だから…。
そのほか、知らなかった面白そうな本もあり、やはり、これだけの「量」があると玉石混淆でも、とても参考になる(以下略)。






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