古本虫がさまよう 『或る女の横顔』の書名を見て、何を思い浮かべるかで「教養の格差」(お里)が知れる?有島武郎の『或る女』か、それとも……?
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『或る女の横顔』の書名を見て、何を思い浮かべるかで「教養の格差」(お里)が知れる?
有島武郎の『或る女』か、それとも……?

(2016・5・31・火曜日)







この前の土曜日(2016・5・28)、神田古書会館の古本市で、300円(税込)で購入した、稲田定雄氏の『或る女の横顔』 (雁書館)を読了。大変面白い本だった。小説というよりノンフィクションというべきか。

ちなみに稲田氏は、ウィキペディアによると、こんな人(一部略)。

稲田定雄(いなだ さだお、1909年7月1日 - 1993年12月)は、日本のロシア文学者、歌人、作家。福岡県八幡市生まれ。1934年大阪外国語学校ロシア語科卒。日本ロシア文学会理事。国鉄門司鉄道局勤務、実業之世界社および日露通信社の記者、陸軍航空通信学校教官などの経歴を有し、交通新聞に私小説的な作品である『或る女の横顔』を連載。姉妹編として短編集『妻の体温』がある。また「創作」(若山牧水が創始者)に参加した歌人でもあり、昭和万葉集に作品が収められている。
作品[編集]
翻訳『鉄はいかに鍛へられるか』 ニコラーイ・オストローフスキイ 共訳 文学案内社、 
『嵐に生れ出づるもの』 オストロフスキイ 第一書房、 『コッホの生涯 フィルヒョウ伝をかねて』 N.A.セマシコ 東邦社、『レールモントフ抒情詩集』創元文庫、『愛について』 ガリーナ・ニコラーエヴァ 現代社(現代新書)、『抒情詩』 レールモントフ(世界文学大系 第26) 筑摩書房、『イヴァーン・デニーソヴィチの一日』ソルジェニーツィン 角川文庫など翻訳多数。自著としては、歌集『自然発火』金山堂書店、 1958.7
『危ふき均衡』短歌新聞社、小説『妻の体温』雁書館、『或る女の横顔』雁書館、 1981.12など。



1981年刊行の『或る女の横顔』は、前半は、奥さんの「目」からみた戦前、戦中・戦後の物語(ほぼノンフィクション? 本人以外は実名の人たちが出てくるから、「ノンフィクション・ノベル」ともいえようか?)。奥さんは結構美人だったようで、ご亭主と知り合う前にもいろいろとプロポーズを近所の青年から受けたりもしていたそうな。育児やご主人の原稿の清書書きなど……。いろいろと微笑ましい家庭の話題や、戦時中の怖い思い出など……。

本書の後半は、稲田氏による家族論(子供論)も詳述されている。
典型的な中流階層の一家族の戦前、戦中、戦後の物語として大変面白く一読した。稲田氏が文学畑の人で、とりわけロシア語が使えるということで、ロシア文学を翻訳しては戦前は即発禁になったり、いろいろと。安月給とはいえ、時々印税の収入も時々あり、子だくさんの家計を支えていく。奥さんも歌や絵画が素人離れした腕前だったりもする。

『実業之世界社』のあと、稲田氏は企画院の外郭団体であった赤坂の東亜研究所(初代総裁は近衛文麿)に勤務もし、そこでソ連極東のハバロフスク放送を聴取し、日本語に訳出した報告書を陸海軍などに提出もしていたそうな。戦時中は水戸の陸軍航空通信学校のロシア語教官にもなったそうな。8・15敗戦の翌日、まだ戦うぞといきり立って上京した水戸戦士(?)たちを横目にみながら、せっかくのロシア文学など貴重な私物蔵書まで機密文書と一緒に彼らに燃やされた怒りから(?)残された軍の食料を自宅に大量に持ち帰った話など、当事者ならではの貴重な「証言」もある。

この前、再読した池田徳眞氏の『日の丸アワー 対米謀略放送物語』『プロパガンダ戦史』 (中公新書)、並河亮氏の『もうひとつの太平洋戦争 戦時放送記者がいま明かす日本の対外宣伝戦略』 (PHP研究所・二十一世紀図書館)も、敵国放送の傍受などに戦時中邁進した関係者による人生回顧録であったが、稲田氏も似たようなことを戦時中行なっていたわけだ。
池田氏の本に出てくる、元共産党員で、ソ連から脱出してきた勝野金政氏との遭遇はなかったのだろうか? 同じロシア語使いとして、なんらかの接点はあったのではないか。稲田氏の本には特に彼の名前は出てこなかった。

また、この本では、ロシア、ソ連に対する「葛藤」めいたことは特に書かれていない。戦後、エレンブルグ来日の時には通訳もしたりしているし、招待でソ連旅行に出かけた体験が、稲田氏にはあったとのことだから(ソルジェニーツィンの本も訳出しているから)、当然、現地を訪問して「ソ連」に対する何らかの感慨はあったはずだが。ソ連崩壊を見届けてから亡くなっているようだし……。でも、中野重治に私淑していたというから……。

『妻の体温』 (雁書館)は、国会図書館にもあり、府中図書館などは所蔵しており、貸出可能のようだ。「日本の古本屋」をさっきみたら、『或る女の横顔』の高価格(2000円~2500円)に比べると、格安の1000円で出品している古本屋が二軒あった。それも読めたら面白いかも。それにつけても、古書会館での古本市は、こういう珍しい、面白い本が、格安(税込300円)で入手可能な場。やはり週末古本屋・古本市行脚するのは楽しい。

稲田氏の『或る女の横顔』の著者名と書名をみて、おお、ロシア文学者で、ソルジェニーツィンの『イヴァーン・デニーソヴィチの一日』の訳者でもある稲田さんが、こんな本を書いていたとは知らなかったということで手にしたのではなくて、書名を見て、ふふふ、有島武郎の『或る女』 (旺文社文庫)よりは大衆的で柔らかくて、『人妻(未亡人?)の横顔』みたいな本かな……北原武夫氏の『薔薇色の門 或る女のヴィタ・セクスアリス』 (講談社ロマンブックス)みたいな本だといいな?と手にした僕ではあるが……。

それでも、まぁ、パラパラと拾い読みをして、「実業之世界社」という言葉を見て、キンコンカーンと感じるところがあって購入したというのも、まぁ、自画自賛ではないが、ひとつの「教養」の物差しにはなるのかも?

ともあれ、ネバーセイネバー。あとは野となれ山となれ!
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