古本虫がさまよう 元朝日記者の稲垣武さんは「日本のオーウェル」だったか? 少なくともハキダメのツルだった!
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元朝日記者の稲垣武さんは「日本のオーウェル」だったか? 少なくともハキダメのツルだった!
(2014・9・10・水曜日)








臼井善隆氏(早稲田大学名誉教授)の『文學と政治・クリスト教 ジョージ・オーウェル、テネシー・ウィリアムズ他』 (近代文藝社)を読んだ。

本書の半分は、オーウェルやウィリアムズについて論じた文学評論。ウィリアムズの本はとくに読んでないので、その文学評論はちょっと分かりかねるが、オーウェル論は秀逸。
こういうオーウェル論と、川端康雄氏の『葉蘭をめぐる冒険 イギリス文化・文学論』 (みすず書房)で触れられているオーウェル論とを比較しながら一読するのもいいものかもしれない。

残り半分は、「月曜評論」や「知識」などに掲載した臼井氏の政治評論(エッセイ)が収録されている。

「月曜評論」といえば、学生時代から購読していた(類似のミニコミ紙の「言論人」も)。懐かしい。「言論人」は分厚い上下(だったか)の縮刷版も買った。これは70年代前後から80年代の日本の新聞の偏向度を分析する上で貴重な資料にもなろう。古本屋でも見たことはない‥‥。

臼井氏の評論では、朝日新聞なども手厳しく批判されている。昔から酷い新聞だったことが分かる。ここで展開されている朝日批判の実例の数々は、リアルタイムで記憶にあるが、若い人は知らないことばかりではないか。

「朝日新聞の二枚舌」というエッセイでは、下村満子氏の『ソ連人の米国観』が親ソのプロパガンダであると指摘(同感)。
一方、本欄でも何度か紹介しているレンドヴァイの『操られる情報』という名著が朝日から出ていることに関して、「朝日は人格の統一を欠く、精神分裂症と言ふべきであらう」(漢字も正字を著者は使っているけど、字が出てこないので、ここでは一部略字使用)とまで決めつけている。たしかにそう言えるが、まぁ、人間もジキルとハイドだし、組織になると、当時から朝日新聞出版部は、朝日新聞本体よりは良心的な人が多くて、出版部が刊行していた週刊朝日に山本七平さんなんかもコラムを連載していたことがあったかと。そのあたりは「多様性」ということで評価してあげてもいいのではないかと思う。

今回の慰安婦虚報問題でも、社友の資格を剥奪されているとはいえ、元週刊朝日の編集長だった川村二郎氏や、元ソウル特派員だった前川恵司氏などが古巣に対して容赦なき批判を加えている。

この対立構図はかつてもあった。元週刊朝日の副編集長だった稲垣武氏(故人)が、『朝日新聞血風録』 (文春文庫)という在社中の朝日の誤報・虚報・言論社内弾圧の実態を赤裸々に綴っていた。文庫は1996年の刊行だが、単行本は1991年の刊行。週刊朝日に、そんな良識派が連載コラムを持っていたのも稲垣氏の発案だった。

単行本版のあとがき(1991年12月の日付あり)で、 「いま朝日新聞は、過去の残滓をひきずりながらも、微妙に変化しつつあるように思う。それが良識を取り戻す方向へ向かっているのか、またぞろ狂気へ走ろうとしているのか、現状では判然としない。おそらくその分水嶺に立っているのであろう。この拙い書が過去の失敗を繰り返さないためのささやかな参考になってくれることを切に望みたい」と記していた。

ちなみに、元朝日記者の慰安婦挺身隊混同虚報記事が掲載されたのは、1991年8月11日付けだったという。

だが、その後の朝日は、「良識を取り戻す方向」ではなく「またぞろ狂気へ走ろう」としていったようだ。

稲垣氏も、文庫版へのあとがき(1996年3月の日付)の冒頭で、単行本のあとがきで先述のような希望を書いたが、 「それから四年余、私の希望は無残にも裏切られた。敗戦から五十年、いわゆる東京裁判史観にどっぷり浸かった朝日の体質はいささかも変わっていない」と(この指摘から20年弱の月日が過ぎたが、「朝日の体質はいささかも変わっていない」というしかあるまい)。

数年前に亡くなった稲垣氏だが、生きていれば、昨今の慰安婦虚報問題で、集中砲火を浴びる古巣に対して、どういう見解を表明したことだろうか。

この文庫の解説を櫻井よしこ氏が書いている。

「多くの人々が勇気なくして発言せずに、戦前の日本は道を誤った。朝日はその誤りの先頭にいた。戦後の、平和な時代の朝日内部で同じ過ちが繰り返されており、そのなかで、しかし、稲垣武氏というひとりのジャーナリストが果敢に戦ったことに、私は心からの限りない尊敬と感動を覚えるものである。その意味でこの書は、言論の場で生きようとする人々全てに心して読んで貰いたいこのうえなく貴重な一冊である」と結語している。

臼井氏の本で指摘されているように、左翼の中にあって、オーウェルが左翼の恥部を遠慮することなく論難した精神力と同様のものを稲垣氏は持っていたといえる。朝日という左翼的全体主義的な言論空間の中で、自由で多様な言論を展開し、潰されつつも抵抗し、フリーになってから自由自在に「ペンの自己規制」を排して戦ったといえよう。
その意味で、彼は「日本のオーウェル」といえるのかもしれない。少なくとも「ハキダメのツル」。

いや、稲垣氏は、ジャーナリストであって、小説を書いていないから、作家のオーウェルとは違う? いやいや、たしか彼はペンネームでちょっとした未来小説も書いているはずだ。「1984」のような未来小説だ。
講演か何かがそのあたりのことを喋っているのを聞いた記憶がある。ジョージ・パスという名前で、 『カントリー・ジャック 198X年日本の悪夢』 (ダイヤモンド社) を書いていると。題名からしても、オーウェルの『1984』を彷彿させるではないか。ペンネームの「ジョージ」も「ジョージ・オーウェル」のもじりなのかもしれない。やはり、彼は「日本のオーウェル」だったのだ。

ところで、稲垣氏のいう「過去の残滓」というのは、林彪誤報事件に関して、朝日は長年沈黙していたが、事件から20年近くたった1995年4月22日付け「戦後50年メディアの検証」欄ではじめて具体的に触れたこと。

とはいえ‥‥。秋岡特派員は赴任した際、当時の広岡社長から「追放されそうな記事はあえて書かなくともよい」と指示されていたので、林彪が失脚した事実は中共当局が正式に発表していないから書かなかった。モンゴル国営通信が、領内に中国軍用機が墜落した云々と発表しても「北京の様子は全く平静」云々の記事を書いた。その背景には編集局長が周恩来との単独会見する企画が進行していた云々など、他人事のように経緯を記述するのみで「この事件はもちろん、中国報道全体の数々の偏向について、未だに読者に対して謝罪はしていない」と、稲垣氏は、文庫版で指摘している。

あぁ、林彪誤報事件も、20年経過してから、加藤茶ではないが、ちょっとだけよ…ということで、こんなこともあってちょっとヘンな報道をしたかもしれないけど、ホホホ、ゴメンあそばせ?ですませていたのだ。正式な謝罪ではないのだ。

同じく慰安婦虚報報道に関しても、同じぐらいの時間が経過して、ちょっとだけよということで、こんなこともあってちょっとヘンな報道をしたかもしれないけど、読売、産経もしていたのよ、ということで、今回はゴメンあそばせも言わないままで、すませようとしているのだろう。

相手が中国や韓国だと、日本政府がいくら謝罪しても許してくれないので、その再現を朝日は恐れているのかもしれないが、相手は文明度の高い日本国民。まともな人々なら、ちゃんと謝罪すれば、大人の対応をしてくれるだろうに‥‥。

それにしても、池上彰氏の連載原稿一時没事件に関して、朝日内の社員がツイッターなどで批判の声をあげたことはまだ評価できようが、8・5&6の紙面に関して、どれだけ批判の声があっただろうか。これに関しても批判・直言する声がなければダメであろう。池上氏没事件のみを批判してもナンセンス。

稲垣氏の、こういう本を、せめて、20年前から、朝日に入社する新入社員の必読テキストにしていれば、あんな誤報虚報事件は起きなかったかもしれない?(いや、問題の元記者の入社時代にはまだ出ていなかった?)。

「いま朝日新聞は、過去の残滓をひきずりながらも、微妙に変化しつつあるように思う。それが良識を取り戻す方向へ向かっているのか、またぞろ狂気へ走ろうとしているのか、現状では判然としない。おそらくその分水嶺に立っているのであろう。この拙い書が過去の失敗を繰り返さないためのささやかな参考になってくれることを切に望みたい」

この警鐘の句は1991年にも、2014年にも当てはまる。もしかしたら、2025年にも当てはまるかも? 

『朝日新聞血風録』は、すでに品切れ絶版。去年だったか、僕より若い大学教授に一冊差し上げようと思って、ブックオフで文庫版を105円で見つけて贈呈した。

朝日内部のことを赤裸々に書いた本としては、ほかにも佐々克明氏(佐々淳行氏の実兄・故人)の『病める巨象 朝日新聞私史』 (文藝春秋)、塩田陽平氏の『朝日新聞への遺書 初めて明かす密室の紛争秘史』 (日新報道)、烏賀陽 弘道氏の『「朝日」ともあろうものが。』 (河出文庫)などがある。併読もおすすめ。


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