古本虫がさまよう がん病棟と特攻基地と南極基地…‥。人生の最後を迎える地として許容できるのは?
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がん病棟と特攻基地と南極基地…‥。人生の最後を迎える地として許容できるのは? 
(2014・4・2・水曜日)











児玉隆也氏の『がん病棟の九十九日』 (新潮社)を読んだ。
昭和50年の発行で、手元にあるのは昭和52年11月の15刷り本。この頃は本もよく売れていた時代だったのだろう。

学生時代に一読していたが、ふと再読した次第。

当時、著者は38歳。出版社を辞めて、フリーの書き手として伸していたころ、ガンになり、闘病生活に入った。その顛末を綴った手記。一時退院もし、小康状態になった時もあったが‥‥。
奥さんが著者の死後に書いた回想の手記も収録されており、胸をうつものがある。

入院している時、小児癌の子供の付き添いでやってきた若い母親の「淡いブラウンのスカートが揺れ形のいい脚」を見て、「不意に、ずいぶん忘れていた感情に誘われ」たこともあったそうな。

癌の夫の見舞いにやってくるヤングミセスが病室には似合わない派手派手しい恰好でやってくるのに、周辺は眉をひそめていたこともあったそうな。しかし、それは、夫の母親が余命少ない息子のために、せめて若い妻の姿を目にやきつけてほしいとの願いでそうしていたと後で知ったという。

がん病棟は、「常識」の例外が許される世界なのだろう。

それは、ある意味で、太平洋戦争(大東亜戦争)末期の特攻基地にも似た世界なのかもしれない。まだまだ人生の先がある人々が、生命を理不尽にも切断されることへの同情から、通常なら許されないことが許されることもありうる空間なのだろう。

そういえば、たまたま先日、テレビでやっていた小松左京原作の映画『復活の日』を、偶然途中から見始めて、最後まで見た。

原作は、角川文庫で刊行された時はリアルタイムで読んだし、映画も見た覚えがある(オリヴィア・ハッシーは、アニセー・アルビナほどではないけど綺麗!?)。もう30年以上昔のことだ。なんという時の流れ‥。

寒さに弱いウィルスの脅威から逃れ、唯一人類が生き延びることが出来た極寒の南極大陸の基地にいた人々。人口減の人類滅亡の危機故に、女性は共有される世界にもなっていたあたりが、いろいろと思案されるところだったが(?)、人は、いつかは必ず死ぬとはいえ、思いがけない病気や戦争での早死は哀しいものがある(人の死そのものに関しては、わがモットーの「ネバーセイネバー」も歯が立たない。諦めるしかないだろう)。

もっとも、その時期を遅らせるためには「ネバーセイネバー」の精神を発揮することによって、何らかの延命を獲得することはありうる…。

児玉氏も、がんとの闘いを継続しつつも、思いがけない急死でもあったようだ。
柩に、処女作(『市のある町の旅 人情と風土にふれる朝市行脚』 サンケイ新聞出版局)などを入れて荼毘にふしたとのこと。

本書に出てくる、父親の死をきちんと認識できないほど幼かった息子さんも、今はジャーナリストとして立派に活躍されていることだろうか。

青春の一冊というのか、紙の本として、30年以上前に読んだ本も、本棚のすみっこに転がっていれば、こうして読み返すことが簡単に出来る。

30年以上昔、自分も親も健康でいた頃、こういう本を読んでも、さほどの感慨も浮かばなかったが、月日の経過とともに、この本に出てきた著者以外の登場人物も歳を取り、場合によっては成長し、衰弱もし、死亡していく。
読者もまた歳をとって朽ち果てていく。そして、こういう蔵書も、線引きなどがなければ、また古本屋などを通じて別の人の手に渡り、新たな読者を獲得していくこともあるのだろう。
古今東西、変わらぬ人間社会の営みであろうか。

以下は再録(一部略)。

児玉隆也氏は、1973年(昭和48年)に『市のある町の旅 人情と風土にふれる朝市行脚』 (サンケイ新聞出版局)と、『人間を生きている』 (いんなあとりっぷ)という二冊の本を出している。著作としては、これらがデビュー作のようだ。
どちらが先に発行されたかは知らない。

『人間を生きている』は(多分)未入手。『市のある町の旅』は最近入手して一読したが、奥付は昭和48年5月1日となっている。

ここでいう「市」とは、サブタイトルからも分かるように、僕の好きな「古本市」の類ではない。蚤の市や高知の日曜市のような、農産物や雑貨などをメインに売る「市」のことである。

児玉氏の著作は、学生時代に『現代を歩く』『ガン病棟の九十九日』『この三十年の日本人』 (新潮社)などを愛読した覚えがあるが、夭逝したために作品数は少ない。だが、『市のある町の旅』という本があることを最近知って探していた。図書館にもそうそうは置いていない本である。「日本の古本屋」でもヒットしないことが多い。
無名時代の本だからかと思っていたが、本書を手にして、「あっ」と思った。というのも、以前本欄でこんな本を紹介したことがある。

千田夏光氏(文)&山田修二氏(写真)の『どん行列車の旅』 (サンケイ新聞出版局)を購入。
 千田氏といえば、僕はあまり好きではないが、官能小説家として有名な、いや、違った、あれは千草忠夫氏。こちらは「従軍」慰安婦問題で活躍した左派系「問題」作家? こんな本を、よりによってサンケイから出していたとは? 

千田氏の本はサンケイ新聞出版局から全十巻で刊行されていた観光ガイドブックのような体裁の本の一冊であったが、児玉氏のその本もこの十巻の中の一冊(千田氏が第七巻で児玉氏が第八巻)だったのだ。
巻頭にカラー口絵写真があり、文中にも関連写真が満載。カバーには「ディスカバー・ジャパン・ブックス⑧」と銘うってもいるではないか。カバー表4や文中にも旅行会社や旅館やお酒などの広告も入っている。雑誌のようなムックのような作りである。こういう体裁の本(並製四六版とはいえ)だから、図書館などは当時購入しなかったか、購入してもガイドブックの類ということで処分してしまったのかもしれない。

しかし、本書は、冒頭に児玉氏がこう記している。

「にんげん」を見にゆく旅
「市」を歩きませんか。
土の匂いを嗅いでみませんか。
蛍光灯とさよならをした、野菜や果物の色が、こんなに美しいことを知っていますか
…と。

ちょっとした「詩」のような囁きで本書は始まる。北海道函館から始まり、東北関東、中部、関西、四国、九州と続いていく。
「ディスカバー・ジャパン・ブックス⑧」となっているし、きっと取材にあたっては、当時の国鉄や旅行会社などの便宜もはかってもらったかもしれないのに、越前大野の朝市の紹介はこんな書きだしである。

正直なこころ音をいえば、この町のことを一行も書きたくない。ぼくにとって、日本国有鉄道が勧進元をつとめる「ディスカバー・ジャパン」などというものは、大会社の社員が背広の襟に社章をつけて歩くのを見たときに感じるこっけいさに通じる。「ディスカバー」などというものは、まるで朝のラジオ体操のようにいっせいに号令をかけられて行うものではなかろう。知らない町の土の匂い、陽のやわらぎ、都会からふるさとに帰った娘の華やぎは、ぼくやわたしの手ざわりの中から記憶すべきものだ。
そもそもなにゆえに「ジャパン」と呼ばねばならないのか。「日本」では、なぜいけないのか…
と。

おっしゃる通りではないか。

この本で紹介されているところでかつて行ったことのある町というと、余市とかこの越前とか高知ぐらいか。
高知の日曜市の紹介では、冒頭、加藤秀俊氏の『都市と娯楽』 (鹿島研究所出版会)の一節、観る者(スペクテーター)と演ずる者(パーフォーマー)の分類から始まっていく…。
そのほか、ブーアスティンの『幻影の時代』 (東京創元社)なども出てくる。
単なるガイドブックの域を超えた児玉氏の分析鋭い「市ルポ」となっているのである。こういう本があるとは知らなかった。
「あとがき」ではこう綴ってもいる。

「民衆」とか「庶民」とか「市民」ということばを使わずに、市の人びとを書こうと思いました。
登場する人びとがみんな「善き人」であるのはわたしのくせです。人間ですから、市の人がそんな人ばかりではありますまい。なんとか一円でも多く稼ごうと、目を皿のようにしている人もいるでしょうか。そんな人も含めて、わたしは「面白いやんか。結構なこっちゃ」と思ってしまいます。
総じて、この日本から、日一日と姿を消してゆく土の匂いと、土着の猥雑さへの愛しみを読みとっていただければ、わたしにとって筆者冥利というものです。
市の歴史的発生や、町や村との成立ちについては、私は素人です。先達の労を孫びきしてのしたり顔は好みませんので触れずにおきました。興味をおもちの方は、宮本常一氏をはじめとする先達の研究をお勧めします。


40年近く前の本…。奥付には著者の現住所(埼玉県新座市菅沢…略)も明記されている。そんな時代の本だ。体裁はガイドブックであるが、中身は濃い。古本屋や古本市を歩けば、こういう本にもいつか出会えるだろう。先の千田夏光氏の本もそうだったが…。

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