古本虫がさまよう 元朝日論説主幹の松山幸雄氏の自叙伝のどこが「いけない」のか?
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元朝日論説主幹の松山幸雄氏の自叙伝のどこが「いけない」のか? (2014・1・ 8)









『いける本 いけない本』 (2013 冬 19号・ムダの会発行)という小冊子はこの前ちょっと紹介したが、その中で、ある英文学者が、松山幸雄氏の『国際派一代 あるリベラリストの回顧、反省と苦言』 (創英社)という本を「いけない本」だとして、 「別に今さら出さなくてもよかった本。これまでさまざまな賞を取ってきたジャーナリストが、何でこんな書物を出そうと思ったのか不可思議」と酷評していた。

なんで、そんなに松山氏のその本を酷評するのか? ということで松山氏の本を一読。僕にとっては、とっても「いける本」でした?

松山氏は元朝日新聞論説主幹。『しっかりせよ自由主義』 (朝日文庫)など、以前読んだこともある。「はきだめにツル」とまでは言わないが、まぁ、朝日にあっては、中庸な思想の論説委員で、その人が論説主幹になった時は、ふうむ、朝日も変わったかなというか、少しは論調がマシになるのではないかと感じはした。

今回の本でも、自叙伝的に聞き語り的に、東京生まれ(いまの江戸川区)の幼少の頃から始まって、東大進学、朝日入社…今日までのジャーナリスト生活が回想されている。
基本的に、右も左も極端なのは嫌いで、朝日時代も、社内での中国に迎合する一部報道に辟易もしていたそうな。

「私は、朝日新聞にも若干の違和感を抱くようになっていました。朝日が『自民党批判』『米外交批判』の立場をとるのはもちろん必要、かつ望ましいことです。私もさんざんやりました」「社会主義圏のことを熱心に報道することも有意義なことです。しかしその過程で、ややもすると『朝日新聞は社会主義を目指している』といった誤解を生みかねないような記事が出ることに、若干の苛立ちを感じていました」

「(外報部時代に)いちばん苦労したのは、いわゆる『中国報道』です。朝日新聞が北京に好意的な記事を書き続けたために、世の『朝日嫌い』を元気づける形になってしまった。『朝日新聞は中国にベタついているから嫌いだ』という評価が、だいぶ長いこと続くわけです。朝日新聞が日中友好促進の尖兵として『北京へ』という旗を振ること自体には、私は反対でなかった。ただ、その過程において、『日中友好に反するような報道はしない』という過度の自主規制をしたのは間違いだったと思います」

「不思議なのは、『日中友好に反する報道はしない』という方針が、別に編集局や論説委員室の壁に張られていたわけでもないし、プリントが回ってきたわけでもないのだけれど、いつのまにか山本七平氏の言う『空気』が出来てしまった」

「文化大革命についても、朝日は概して評価が甘かった。当時の論説委員の中には、『文化大革命は人間精神の歴史的実験だ』と甘い見方をする人がいる、との話を耳にしましたけど、私は紅衛兵の活動など、まったく評価する気にならなかった。それから、林彪が失脚したにもかかわらず、『まだ林彪は失脚していない』という原稿が出たり、そういうミスがときどき起こるのを、不快な気持ちで見ていました」

「外報部デスクとしての私の抵抗は、北京から中国べったりの記事が送られてきても、それを『しようがないねえ、また』と言いながら預かりにして、机の引き出しにしまって整理部に出さない、といった程度のものでした」「北京から抗議の電話がかかってくる。どうせ電話は盗聴されているのだから、抗議の電話をかけたことで北京特派員のメンツは立つのだろう…といった調子の繰り返しで、悪名高い北京電はあれでも結構ボツになっている」

「私がとくに苛立ったのは、革新陣営の政治家の態度です」「ベトナム戦争についてはギャアギャア言っていたくせに、ソ連のチェコ侵入については、多少は批判しても、そんなにむきにならないのですよ」

いささか、証文の出し遅れ(?)の感はするが…。

当時、社内の中国迎合報道にもっと果敢に抵抗した朝日新聞の「週刊朝日副編集長」だった稲垣武氏は、閑職に飛ばされ、定年を早めて退職した(その経緯は、『朝日新聞血風録』文春文庫に詳述されている)。それに比べると、松山氏はまだ上手く(?)対応したおかげで、後に論説主幹(取締役)にもなっている。

まだ論説委員になってまもないころ、尖閣問題で中国を批判した社説も書いたそうな。そのために、朝日と協力して日本で公演する予定だった京劇が中止になったという。

そのことに関して、外務省の文化事業部長が「中国はすごいことするねえ。松山さんに社の上層部からお咎めはなかったの?」と聞かれたこともあったそうな。論説主幹は何か言われたらしいが、ご本人には何も言ってこなかったとのこと。
中ソの大使館から招待されたこともなかったという。朝日退職後、女子大の教授にもなったが、そもそも美人局の心配もなかったタイプ?

進歩的な人々のダブルスタンダード(西側の人権抑圧は非難するくせに、東側の人権はあまり論じない…)も俎上にのせて批判もしている。

若干の限界を感じるところもあったが、総じて、いい意味でのリベラル派に属しているのは間違いない。「容共リベラル」派ではない。

この本のどこが「いけない本」なのか、僕には理解できない。しかし、「いけない本」だと紹介してくれたおかげで一読できた次第。こういう本が去年出ていたことも全く知らなかったので感謝?

ともあれ、かくも、「いける本」「いけない本」も、読み手によって、評価は大きく変わるもの。自分自身の目で確認することをお勧めしたい。

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